供養

あるエッセイを読み終えて、ふと思ったことがあったので書き留めておく。
私は根本的に性行為が嫌いなのかと言われたら、ノーだ。それが、好きな人との特別な行為だからという可愛らしい理由では無いにしろ、「楽しさ」は知っている。だから、ノーだ。
ただ時折無性に嫌いになることはある。性的な匂いが受け入れられなくなって、女であることが煩わしくなって、自分が抱かれる側であることが嫌になる事はある。けれど、それが慢性的なのかといえば違う。

相手がふといつもと違う表情を見せたり、人肌の温もりがこんなにも優しいんだと感じたり、ただ触れ合うことがこんなにも純粋に楽しいことなのだという事を私は確かに知っている。
だから、決してマイナスな印象を持っているだけでは無い。

こうしてネット上という一生漂い続ける媒体に書き散らした今思うことがある。
ここに書き散らしたという事は、相手がこれを読んでももういいという覚悟を持ったという事なのだし。
だから私は今だから言える事を残そうと思う。

あの日貴方はあまりにも自然に私に手を伸ばしたけれど、貴方がもしも性的な欲求があったにせよ、私に好意を抱いていたにせよ、必要だったのは何かしらの一言だったのです。
ストレートに「抱きたい」でもいいし、「特別な感情がある」でもいいし、ただ一言私に伝えて、私のリアクションを待つ事を貴方が怠った事が全てなのです。
私は貴方に敬意を持っていたし、実兄の親友であるという事実を知っているし、私は貴方にとても可愛がってもらっていた過去もきちんとあるのだから、貴方のどんな言葉にも私は向き合ったのにと思うのです。
貴方にそういった欲求が湧き起こった事実を、私はきちんと受け止めることだけは出来たしそれによって私が貴方を嫌う事はなかったのに、どうしてたった一言を逃したのでしょう。
私が示したであろう答えはどちらにせよ「よくないものだよ」という一言でしかないのだけれど、あんな風に積み重ねてきた過去までも壊してしまうような結果にはしなかったはず。
一瞬の選択だったにせよ、貴方は私に意思を示すことが必要だったのです。
私は人間の三大欲求を知らないわけではないし、どんな意思が働いていたにせよ貴方に対しては真摯でありたいという気持ちがあの時までは確かにあったのだから。
貴方の目から見て私が「少女」から「女性」に成長しているという事実だけでも提示してくれたら、貴方は自分の奥さんと子供に不義理を働くことも無かったのに。
私はそれを一番悲しく思います。ランドセルを放り投げて兄の部屋に遊びに行くと笑っておかえりと笑ってくれた貴方が、一番守るべき家族に不義理を働いた結果になった事を、何より悲しく思います。
貴方は私を傷つけたけれど、同時に自分も傷つけ、更に貴方を純粋に信じて嫁いだ奥様と生まれてきた子供達をも傷つけたのです。
誰1人幸せにならない結果を迎えてしまった。
もしも貴方があの時たった一言私に示してくれていたならば、起こらなかった事なのです。

私は貴方の前ではいつだってランドセルを放り投げて遊んでもらおうとする子供のようでもありましたから、年齢に見合わず確かに隙だらけだったでしょう。
自分がもう幼少とは違う1人の女である事を自覚していたら何か違ったかもしれません。
けれど、いずれにせよ一方的に手を出した貴方に責任は生じてしまうし、その責任を回避させられるとしたら、止めるべき存在の私しかいなかったのです。

私が貴方を許すとかそういったレベルの話ができるようになるのは明日かもしれないし10年後かもしれないし明確に断言できないことです。
例え私が貴方を許せる日が来たとしても、貴方が沢山の貴方を愛する人たちを傷つけたことは変わらないことが何より悲しいことだと思いませんか。
私がたった一言、こういったことがあったんだよと実兄に漏らせば、貴方は親友までも失います。貴方の選択は何一つ正しく無かった。
私は貴方にいつまでも安心のできる優しい人であって欲しかったのです。
友人の年の離れた妹とすら対等に笑い合ってくれる優しいお兄ちゃんだったのだから。

純粋に湧き起こってしまう性欲を悪とは思いません。
それは何一つ悪くない当たり前の原理であると知っているから。それは生物に与えらている本能であると知っているから。
ただ、知性を与えられた生き物であるのならば、意思の疎通は必要不可欠だったのです。